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映画『ハーモニー』感想

2015/11/21劇場で。感想。

(以下の感想は2015年当時のものです…)

 

 

 冒頭:なんだかなあ…盛り上がりに欠けるなあ…

 日本:こういうのと違うよなあ…うん…違うよなあ…そうじゃないんだよなあ…

 ラスト:ミャハもびっくりトァンの「愛してる」発言…ハーモニープログラムが実行され、二人の意識が消失…我々の意識も消失……選択が自明、宣託が従命な生命体によって、この感想テキストは生成されている……

 

 

 冗談は止めて頑張って書くと、劇場版ハーモニーは単純に映画として失敗作だと思われる。なぜなら、この映画を原作と切り離して映画単体として観ると、けっこう説明不足感があるゆえに、オチが分かりにくいし、物語の細部が詰まっていないから。

 

 細部を原作で補完すればいいじゃないという意見はもっともだが、そもそも小説と映画は表現のジャンルが違うし、また、続き物の映画でない限り、一本の映画はそれ自体のみで評価されるべきだ。その意味では、原作と映画の脚本が異なっていても一向に構わない。映画として面白ければそれでよい。だが、他のメディアに必然的に頼らなければ面白くないような映画は、ほとんど全て、映画としては駄作だと思う。

 

 逸れた話を元に戻すと、単純に面白くないから劇場版ハーモニーは駄作なのだが、具体的にはどこが面白くないのか。

 

 一つ目は、細部の描写がヌルい点である。これはもう色々な所で書き込まれているので繰り返すのは面倒だが、どうしてこうなった的な謎建築物、生体部品で作られているはずのトァンが乗る馬がなぜかガチガチの機械馬、怪我しそうな物を最大限排除するあるいは安全性を高めるはずの日本でなぜかグランドピアノ、マッチ、ベランダ、プール等の危険そうなブツがごろごろしてる、全員コンタクトなはずの大人が眼鏡をかけている(伊達メガネだとしてもガラス入ってたら危ない)など…世界観と映し出される事物とが上手くマッチしていない。

 

 二つ目は、一部の演出がよくない点である。冒頭のトァンがRPGを撃つ場面はイマイチ盛り上がらないし、問題のカプレーゼシーンは、観る前かなり期待していたのですが、実際は、頑張っている血まみれのキアンを映さずに、トァンと返り血を浴びる店員を映した形のよく分からないアングルになっている。これ、トァンのモノローグという体で物語が進んでいたのに、トァンでもなければキアンでもない視点からこの重要シーンを描くのはどうなんだろうと思ってしまう。あと、謎の百合百合しさ。あの衝撃のラストをやるには必要な演出なのかもしれないが、キアン置いてけぼりなのは許さん。演出のせいで、キアンの存在感は居ないも当然のように薄くなっている。そうすると、キアンの「ごめんね、ミャハ」という台詞に穿った解釈をして、キアンは、トァンとミャハのイチャラブぶりに嫉妬あるいは嫌気が差して反抗を一人裏切ったのかもしれないみたいな気持ちにもなる。どちらにしろ、二人のそういうシーンがいちいち回想に入ってくると、それ以外の脇役の存在感が相対的に薄くなるのは制作者にも分かっていたことであろう。百合マシマシ発言は確信犯である。

 

 で、恐れ多くもガチ百合へと脚本を変えてしまった劇場版ハーモニーの面白くないところ三つ目は、この恋愛要素がミャハの思想をけっこうぶち壊す点である。恐らく、作品最大の違和感がこの点に潜んでいるような気がする。というのも、女版タイラーダーデンこと御冷ミャハが憎悪したのは健康至上主義社会。健康管理ナノマシンを身体に入れた大人は、その身体を社会のリソースとして使うことを余儀なくされ、共同体全員が互いの身体を気遣う社会。その社会に対してミャハは「自分の身体は自分一人だけのもの。自分の死は自分一人だけのもの。システムの資源として生き、資源として死んでいくのはまっぴらよ」というイデオロギー*1で「一緒に戦場へと赴く同志=トァンとキアン」を自殺へと導く。はずなのだが、トァンがミャハに恋愛感情を抱いていたと仮定すると「二人が一緒に自殺する=一緒に仲良く死のうね」ということになって、いや、これは自殺する目的が変わってませんかトァンさん、ていうか、ミャハにとっては困ったことになりませんか。そして最後のシーン、衝撃の告白でびっくりでもミャハはちゃんと殺されるのだが、ここ、一人で死ねたミャハに続いてトァンも一緒に死ぬか(めでたく仲良し)、そうしなければミャハを殺さないでハーモニープログラムの始動を二人で待つか(仲良し)、トァンの行動はこの二択だと思う。だって、原作と違って、トァンの復讐じゃないんだから。現在恋愛感情を持っている相手に復讐するのかよ。いずれにしても、映画ではミャハが撃たれたその後のシーンは皆無だから、ものすごいモヤモヤする。面白くない。なんだかなあ……

*1:自分が資本ではなく、身体を持った人間であることを確かめるのに「一発おれを殴ってくれ」と豪語するタイラーダーデンのそれとよく符合する